『んん……ッ ハッ』

最悪だ。
こんな事、悪夢でしか有り得ない。

『ご馳走様』

舌をペロリと出し、不敵な笑みを浮かべる男。
明るめピンクページュの髪に混じる赤のメッシュ。

それが自分の髪かエクステかなんて、今はどうでもいい。
問題はそこじゃない。

問題は、見ず知らず初対面の男に唇を軽々と奪われた事。
(しかもベロチューで)

そして何の罪悪感もないのか、平然とそこに佇(タタズ)む奴の態度。

誰かこれを夢だと言って。
私を安心させてよ。


『文句や苦情なら当店へどうぞー』

一瞬、天使と見間違えてしまう程の神々しい微笑み。
営業スマイルにしては出来が良すぎる。
天使の微笑みと共に差し出されたのは1枚の紙。

天国への切符?
いやこれは…

『是非是非Sweet Loverをごひいきに♪』

て、テメーの店のチラシかよ!!

『要らないしッ こんなん!』

グチャグチャの紙ボールにして男に投げ付ける。
しかしひょいと軽〜く避けられボールは虚しく床に着地する。

『またねー』

グーパーグーパー。
手を器用に動かし、またあの笑顔を見せた。

男の後ろはベランダ。
男は逆光で眩しい光の中、私の前から姿を消した。

『く、悔し〜ッ!』

不覚にも奪われてしまった唇を腕で拭い、それでも消化できない想いを壁を蹴る事で抑えた。

いきなりキスなんて…
キスなんて…ッ



ってか1ページ目でキスって有り得なくない?!