『上機嫌』
占いの館から出た瞬間、
輝はそう言ってクスクスと笑った。
『だって、相性いいんだって!』
よく喧嘩するから、絶対駄目だと思ってたのに……
『あんなん誰にでも言ってるかもよ?』
なんて言って、意地悪な顔を見せる。
『で、でも! 初対面で惹かれ合ってるって、嘘じゃないじゃん!』
なんせ、一目惚れって言ってたぐらいだし。
『惹かれ合ってた……ねぇ』
……ん?
何、その引っ掛かる言い方。
『合ってたって事は、綾香もなんだぁ?』
『ばッ……馬鹿じゃないの!? 私じゃなくて輝が!』
そこまで言いかけた時、ハッと気付いた。
子供のように無邪気で、嬉しそうな笑顔に。
何よ何よ。
さっきまで意地悪な顔してたくせに……
急にそんな風に笑われたら、調子狂うじゃないのよ……
『そりゃ、カッコイイとは思ったけどさ……』
素直に認めるのが恥ずかしくて、つい小声になってしまう。
そんな私の頬を両手でギュッと挟むと、犬猫にするような軽いキスをする輝。
ってか人前なんですけど!?
『俺も初めて見た時、可愛いと思った!』
パァっと明るく言うから、笑えてくる。
ギャルだって馬鹿にしてたくせに!
『ってか輝って、自分の名前知ってたんだね』
『え? 当たり前じゃん。 自分の名前知らない奴いんの?』
いや、当たり前とか言っちゃってるよ。
私、ずっと気にしてたのにさぁ……
『気を使って損した! てっきり記憶喪失みたいになってると思ってたのに』
『あはっ、ドラマや漫画じゃないんだから』
『もう、笑わないでよ!』
ケラケラ笑う輝にチョップをくらわし、怒った顔を見せ付ける。
『ごめんごめん。 まぁ、名前隠してた俺も悪いか』
そうだよ!
元はと言えば、輝がまぎらわしい事するから。
『でも、もうやめるから』
……え?
『ゲームは終わったんだ。 これからは、神河輝として生きていくよ』
そう言った輝の顔は、さっきの子供のような表情から一変して、胸に大きな決意を抱いた、大人の男の顔をしていた。
『綾香が取り戻してくれたんだよ? 俺の名前を……』

