『……あれ?』
智志が出ていってからしばらくしてからだ。
『何これ……』
頬がびしょ濡れで、驚いた。
おまけに手で擦ったら、メイクも落ちるし。
『嫌だ。 かなりパンダになってんだけど』
ガラスに映る自分の顔があまりにも悲惨で、ハハッと笑いが漏れる。
『笑わないで、素直に泣けばいいじゃん』
そんな私を見て、輝も笑う。
そして、少し強引に抱きしめた。
『今は泣いて、また明日になったら笑えば?』
強い腕とは裏腹に、優しい言葉。
そんな事言われたら、マジで涙が止まらなくなる。
本気で好きだったんだ。
本物の恋愛だったんだ。
いつからか、お互いを思いやる気持ちが消えて、すれ違ってしまった。
いつからか、お互いのいい部分に気付けなくなってしまった。
いつからか……
『落ち着いた?』
ずっと何も言わず泣き続けた私に、輝は文句一つ言わず、抱きしめていてくれた。
腕も疲れただろう。
本当は帰ったばかりで、休みたかったんだろう。
でも、ずっと強く抱きしめてくれていた。
『ごめんね? 変な事に巻き込んで』
ようやく落ち着きを取り戻し、輝に笑顔を見せる事が出来た。
『別に? 好きな女が困ってんのに、放っとく馬鹿いないでしょ』
『……冗談ばっか』
そんなんだからホストなんてって言われるんだよ。
本当は、すごくいい人なのに。
『綾香は一目惚れって信じないんだ?』
『え?』
何を急に……
『一目惚れしたんだ。 最初からずっと、綾香を奪ってやろうと思ってた』
え?
えぇ?
えぇー!?
『な、何言って!!』
そんな事ってあるのー!?

