どこかで期待してた。
輝が、笑顔で現れるんじゃないかって。
「馬鹿だな」って、言ってくれるんじゃないかって。
だけど、やっぱりそんなのは、物語の中だけの事だった。
『おかえりー』
なんて。
奴は何も知らずに、笑顔で私を迎える。
『ずいぶん遅いじゃん。 仕事?』
『仕事じゃないけど……って、何どさくさに紛れて』
当たり前のように玄関に入ってくる輝を突っぱね、急いで扉を閉める。
しかし、靴の先を入れられ、閉める事は出来なかった。
『警察か、あんたは』
『まぁ、しつこさは警察なみだけどねー』
……笑えないっつの。
『どこ行ってたの?』
今度は、職務質問ってやつ?
『ちょっと、お茶しに』
「咲耶んとこに」って言ってやろうかと思ったけど、輝の反応が恐いからやめた。
『ふーん…… 彼氏来てたけど』
……え?
『嘘!?』
智志が来るなんて、そんなわけ……
それに、今さら話す事なんて。
『嘘だと思う? 本当だと思う?』
『は?』
何言ってんだ、こいつ。
『誰とお茶しに行ってたの?』
まさか。
まさかこいつ。
『何で輝に言わなきゃなんないの』
やっぱりそうだ。
この不適な笑顔の意味は……
『俺、綾香宛てに伝言あずかってんだけどなぁ』
こいつ、交換条件に出そうとしてる!!
なんて奴だ……
伝言とか、別にどうでもいいし、
今さら智志を追いかけるつもりもない。
そりゃ、別れた直後は悲しかったけどさ……
あ、もしかして、
「俺も寂しい」とかの内容?
どんな顔して、輝と話していったんだろう。
……気になる。
気になる気になる、気になる!!
『あーもー! 咲耶だよ、咲耶! 咲耶のいるホスクラに行ってたの!!』
『やっぱ咲耶か。 相変わらず仲良いねぇ』
『な、仲が良い!?』
むしろ、ライバル視されてんすけど。
『それより、伝言は?』
ハッと大切な事を思い出し、輝に詰め寄る。
そんな私に輝は、
『耳かして』
と、耳元に唇を寄せる。
『……ウッソぴょーん』

