ようやく気付いた。
私にとって、輝がどんな存在か。
『輝の……馬鹿野郎……』
誰にも渡せない、大切な存在……
『誰が馬鹿野郎だって?』
と、突然だった。
ベランダから忍び込む、黒い影。
それはまるで……
出会った時と同じよう……
『ッ輝!』
気付くと、私は輝の腰をギュッと抱きしめていた。
『お客さん、は……?』
『あんな壁の向こうから啜(スス)り泣く声がしたら、誰でも萎えるっつの』
という事は、何もしてないの?
何もしないで帰っていったの?
『それに、やっぱ綾香の隣じゃ、悪い事出来ねーわ』
『輝……』
まだ、私を好きでいてくれるのね。
あんな事しても、好きで……て。
輝って私の事好きだっけ?
冗談で言われた事はあるけど、真剣に告られた事はない。
まさか、好かれてると思ってるの私だけ?
自意識過剰!?
『綾香、ちょっと絞めすぎ』
腰に回された手を摩りながら、苦笑する輝。
待てよ?
キスだってしたじゃん。
好きじゃなきゃキスしないよね?
でも、奴はホストだ。
苦手な客にも笑顔を見せる。
キスだってその程度かも……
『もー、綾香ったら強くギュッてしすぎ。 そんなに俺の事愛してんの?』
冗談っぽく意地悪に言って、私を腕の中に閉じ込める。
輝に対する気持ちに気付いてしまったからか。
その冗談は、かなりキツかった。
だからだ。
『愛してるなんて冗談やめてよ! 誰が輝なんかッ』
と、可愛いげもなく反抗してしまったのは……
よくよく考えれば、気持ちを伝えるべきチャンスだったんじゃ……と思った。
『はは、そこまで否定すんなって! さすがに傷付くっつの』
苦笑しながら、私を拘束していた腕が離れていく。
『あ……』
後悔。
もっと長く抱きしめててほしかったのに……
素直になれば、よかった……

