『こういうのを泥棒って言うんじゃないかな』
パラパラと電話帳をめくりながら咲耶が言う。
『違うよ。 ちょっと借りただけだし』
ここは和食レストランのお座敷。
私達は、輝の実家を調べるために電話ボックスから電話帳を借りてきた。
決して盗んだわけじゃないよ?
ほんの一時間ほど借りただけ。
『上川はチラホラいるな。 でも……』
少し開いた間が意味深で、思わず息をのんでしまう。
『神河は、二軒だけだ。』
『……え……?』
二軒って事は……
どちらかが輝の実家って事?
『食べたら、近い方から回ろう』
どうしよう。
何だか思ったより緊張する。
ようやく輝の実家がわかるんだ。
お母さんやお父さんに会えるんだ。
輝は、喜ぶかな……
『さぁ、行くか』
電話ボックスに電話帳を返し、駅に向かう。
一軒目の神河は、電車で2つ先の駅から少し歩いた所らしい。
『あのさぁ、咲耶は初めて輝の家に行くんだよね?』
駅に向かう途中、ずっと疑問に思っていた事を、ついに切り出した。
『家に行ったわけでもないのに、どうして輝を知る事が出来たの?』
多分、咲耶は輝の事を知っている。
きっと皆が隠す理由も知ってるんだろう。
それをどう知ったのか、ずっと気になってた。
『……輝の顔かな』
『顔?』
『輝があまりにも父親に似てたから、ピンときたってわけ』
だから、その父親の顔をどうやって知ったんだっつの……
『輝の父親がその人だって思ったら、つじつまが合ってきちゃったんだよね』
答えになってるような、なってないような……
『でもそれは全ては僕の予想でしかない。 だから確かめるために君と来たんだよ』
よく解んないけど、咲耶の真剣さだけは伝わった。
本気で輝を知ろうとしてるって。
知った後にどうするかは、私にはわからないけど……
この人は悪い人じゃないってのは、わかった気がする。

