『まぁ、あれだな。 よくある話だよ』
渋々……という言葉がぴったりなくらい、輝はボソッと呟いた。
『ちゃんと避妊しなかった結果ってやつ。 デキちゃったんだよ、俺が』
いつものふざけた様子もなく、ただ坦々と話す。
それが、妙に悲しかった。
『母親は産む事を選んだけど…… 親父の方は、処分を強く望んでた、らしい』
きっと人づてに聞いたんだろう。
言葉が時たま止まる。
『いつまでも決着つかなくて、結局、親父の方が堕胎(ダタイ)するための金を置いて姿を消した』
「よくある話だろ?」
そう言って、数分ぶりの笑顔を見せた。
『……シングルマザーになる道を選んだんだね』
『ははっ。 俺が今生きてるって事は、そうなんだろうな』
確かによくある話だけど、納得いかない。
それだけ大切に思ってた子を、何で施設なんかに……
『でも育てきれなかったみたいで、ものごころついた時には、あの施設にいたんだ』
育てきれなかったなんて。
せっかく、反対を押し切ってまで産んだのに……
『俺が知ってんのは、そんくらい』
「そんなくらい」なんて意地悪に笑うから、何も言えなくなる。
確かに悲しい話になる事を覚悟してたけど、実際に聞くとリアルすぎて恐い。
急に、腫れ物を触るような気分になっちゃうよ……
『そんな顔すんなって。 自分で聞きたいっつったんだから』
『そうだけど……』
やっぱ、こういうのは本人に聞くもんじゃないな……
『本当に小さい頃だから覚えてないぶん、悲しいとかは無いけどね』
悲しさが無いと言って笑う輝を直視出来なかったのは、きっと、
輝の本心を垣間見るのが恐かったからだ。
きっと、寂しく笑ってるだろうから……

