ロールプレーイング17

 僕は事務所へ向かった。夕刊を配り終えた知り合いの従業員が、僕に気付いたが、手を止めることは無く、作業を続けていた。
「井上さん。」
 僕は、声を掛けた。
「お、来たな。」
 井上さんはにっこりと微笑んだ。
「だいぶ泣いたなぁ。その顔じゃぁ。」
 えっ、、。僕は両手で顔を拭った。
「すぐに解るぞ、、。」
 井上さんは、笑った。
「飯でも食いに行こう。」
 井上さんは、僕の背中に手を回し、俺のおごりだとつぶやいた。

「こんな居酒屋で悪いな、あいにく、いつもここしか使って無くてな。好きなもの頼め、飯でも、焼き鳥でも、、。」
 そこは僕なんかが一度も来たことの無いような趣のある大衆居酒屋だった。お客はほとんどいなかった。
 気がつくと、僕は朝から何も食べていなかった。急にお腹の虫が鳴いた。その音を聞いた井上さんは僕に、好きなものを食べろといった。

「寂しいか?」
 突然、井上さんは僕に質問をした。
 店の奥の古びたテレビからナイター放送が流れていた。

「死のうなんて思うなよ、、、。」
 
「えっ、、、。」
 井上さんは便ビールを注ぎながら、そっと僕に訴えかけた。
 確信を付いたようなその言葉に、一瞬僕はドキッとした。
 井上さんは、ビールの泡を見つめ、静に言葉を並べ始めた。

「僚介は、心配していた。俺には言っては来なかったけどな。」