ロールプレーイング17

一ちゃんが逢いに来てくれたよ。
 奥からおばちゃんの声が微かに聞き取れた。
「一ちゃん。」
 中からおばちゃんが顔を出し、僕に向かって頷いた。僕はそれに頷き返し、店の調理場を抜けおばちゃんの待つ扉の前まで歩み寄った。
「どうぞ。」
 おばちゃんの声はいつもにまして優しかった。その部屋は畳四畳半程度の、けして広いとはいえない部屋で、その一番奥に布団が引いてあり、おじちゃんはそこに横になっていた。目は閉じていた。あんなに元気だったおじちゃんが?日本一のカツ丼を作るおじちゃんが?涙があふれそうになるのを僕は必死でこらえようとした。そしてそのまま靴を脱いで僕は部屋に上がり込んだ。

「おじちゃん。」

 僕は横になって目を閉じているおじちゃんにそっと声を掛けてみた。
 おじちゃんはゆっくりと目を開けて、僕の方に視線を向けた。その目には、僕が知っている限りのおじちゃんの目とは全く違っていて、、。まるで、全ての活気を失ってしまったかのように、生き生きとした光を、ほとんど感じ取ることが出来なかった。
「おじちゃん、、。」
 僕はそっとおじちゃんの右手をとった。その手にはほとんど力がなかった。僕は初めて老人の手を触った。深い皺がいくつもの年輪のように折り重なって刻まれていた。だけど柔らかくて、体温があったかいわけじゃないのに、その手に僕はぬくもりを感じた。とても温かかった。おじちゃんはこの手でずっとやってきたんだなって。生きてきたんだなって、、。長い年月を、長い一生を、長い毎日を、、。毎日を乗り越えてきた手。僕は一瞬でこの手を好きになった。

「早くげんきになってね。」

 もっと気のきいた言葉を掛けられたらいいのにって僕は思ったけど、これ以上何かを言おうとしたら、涙をこらえきれる自信がなかった。僕はゆっくりとその手を離した