「……慶斗。」

慶斗からの電話なら、起こされても良かったのに。

ううん、電話してほしかった。

その優しい声であたしを満たしてほしかった。

「会えないん、だ。」

抱き締めて、あたしは慶斗のものだって教えて。

あたしの気持ちは慶斗にある。って。

だけどそれさえも、叶わないんだ。

願ったりなんかしたらいけないんだ。

一時とはいえ、あたしは慶斗を裏切ったんだから――……。

――

コンコン

「はい。」

ガチャッ

「!!!」

すぐにドアを開けた事を後悔した。

だってそこに居たのは……

「久し振り、若菜ちゃん。」

にっこりと微笑んだ、あの家庭教師だったから。