「ん」
また出た。
ん。じゃ分かんないんだってば!!
しかも後ろ向きだしっ。
ポン、ポン、ポン
え?この音ーー‥
聞き慣れたその音に、ゆっくり振り返った。
「‥ボール」
コイツが差し出したそれは、私が練習の時に使ってるマイボールだった。
黄色い硬球の溝は、ピンク色に塗ってある。
それから‥
「このブサイクな猫、お前のだろ?」
私お手製の、可愛い猫が描いてあるんだ。
「なんで‥それっ」
昨日、部活の時に使ったハズ。
忘れるとしたら……っ
「廊下に、落ちてた」
「‥っ!!」
やっぱりそうだ。
あの時‥走って逃げたあの時に落としたんだ。
「お前‥何を聞いた?」
じりじりと近づいて来るコイツから距離を取るように、私もじわじわと後ろへ下がる。
「別に‥何も」
「言え」
言えるわけない。
言ってしまったら最後、認めて、受け入れなきゃならなくなるもん。
膜が張って、まつげが重たくなる。
必死にまばたきをしないように、漏れそうになる嗚咽をこらえるように、唇を固く、固く、閉ざした。
「言え」
後ろはフェンス。
前にはコイツ。
左右には腕。
囲まれた私は、ついに逃げ場を失った。
「はぁー‥」
前髪が揺れるくらいにつかれたため息が、一気に私の涙腺を溢れさせる。
私は、泣いてるのがバレないように下を向いた。
ギュッと握ったグーの強さは、私の心臓がギュッとなってる強さと同じ。
ギューッて締め付けられて、きっと、その反動で弾けてしまうんだ。
「また‥泣いてる」

