たぁ坊とるぅ *32page*




「ん」



また出た。

ん。じゃ分かんないんだってば!!

しかも後ろ向きだしっ。



ポン、ポン、ポン




え?この音ーー‥


聞き慣れたその音に、ゆっくり振り返った。



「‥ボール」



コイツが差し出したそれは、私が練習の時に使ってるマイボールだった。

黄色い硬球の溝は、ピンク色に塗ってある。

それから‥



「このブサイクな猫、お前のだろ?」



私お手製の、可愛い猫が描いてあるんだ。



「なんで‥それっ」



昨日、部活の時に使ったハズ。

忘れるとしたら……っ



「廊下に、落ちてた」

「‥っ!!」



やっぱりそうだ。

あの時‥走って逃げたあの時に落としたんだ。



「お前‥何を聞いた?」



じりじりと近づいて来るコイツから距離を取るように、私もじわじわと後ろへ下がる。



「別に‥何も」

「言え」



言えるわけない。

言ってしまったら最後、認めて、受け入れなきゃならなくなるもん。


膜が張って、まつげが重たくなる。

必死にまばたきをしないように、漏れそうになる嗚咽をこらえるように、唇を固く、固く、閉ざした。



「言え」



後ろはフェンス。
前にはコイツ。
左右には腕。

囲まれた私は、ついに逃げ場を失った。



「はぁー‥」



前髪が揺れるくらいにつかれたため息が、一気に私の涙腺を溢れさせる。

私は、泣いてるのがバレないように下を向いた。

ギュッと握ったグーの強さは、私の心臓がギュッとなってる強さと同じ。


ギューッて締め付けられて、きっと、その反動で弾けてしまうんだ。





「また‥泣いてる」