たぁ坊とるぅ *32page*




前を歩く大きな背中は、何も言わないで階段を上っていく。


一段、また一段と足に体重を乗せる度に

私の心臓は一段、また一段と、破裂のカウントダウンを刻む。


泣いちゃダメ。


泣いてる顔なんか見せたら、きっと、言いにくくなるだろうから。



……泣いちゃ、ダメ。




アイツが一瞬、足を止めて

キィィー‥っとクリーム色の重たい鉄扉を開いた。


ぶわって吹いた風に、思わず目を閉じる。




「大丈夫か?」




ゆっくりとまた開けば、扉を押さえながら振り向いていたアイツ。



‥っ、ズルイよ。


好きだって気づいたからかな?

あれも、これも、それも


あんたが優しかったんだってこと、思い知る。




灰色のフェンスの前まで歩いた時、4限目の始業ベルが鳴った。





「始まっちまったな」





そう言ったコイツに、振り向くことが出来なかった。