前を歩く大きな背中は、何も言わないで階段を上っていく。
一段、また一段と足に体重を乗せる度に
私の心臓は一段、また一段と、破裂のカウントダウンを刻む。
泣いちゃダメ。
泣いてる顔なんか見せたら、きっと、言いにくくなるだろうから。
……泣いちゃ、ダメ。
アイツが一瞬、足を止めて
キィィー‥っとクリーム色の重たい鉄扉を開いた。
ぶわって吹いた風に、思わず目を閉じる。
「大丈夫か?」
ゆっくりとまた開けば、扉を押さえながら振り向いていたアイツ。
‥っ、ズルイよ。
好きだって気づいたからかな?
あれも、これも、それも
あんたが優しかったんだってこと、思い知る。
灰色のフェンスの前まで歩いた時、4限目の始業ベルが鳴った。
「始まっちまったな」
そう言ったコイツに、振り向くことが出来なかった。

