居酒屋でのバイトは臭くなる。
タバコの煙はあちこちであがり
揚げ物や焼き物
エアコンが効いていても
スタッフは汗だくになる。
ニオイはどうしてもついてしまう。

バイトでフロアを動き回り
全力バイトをしてきた海央
帰宅後のお風呂は大好きな時間だ。
母の影響で使い始めた
ロクシタンのローズの石鹸は
海央にとって
無くてはならないものと言ってもいい。
使い心地の良さはもちろん
きつくないローズの香りは
気分を落ちつかせ
柔らかいガーゼにつつまれているようだった。

携帯が鳴ったのは1時前。

「もしもし?うみちゃん?」

航太だった。
海央はベッドに横になりながら
航太からの電話に出た。

「もしこー」

海央はついいつものノリで出てしまった。

「もしこ~?笑
航太だけど、うみちゃんまだ起きてた?」

「起きてたよ。
さっき帰ってきて
今お風呂でたから…」

「えぇ~素敵な状況だね♪笑」

「あははっ!
そんなノリなの?
今日はじめての人同士なのに?笑」

「ん~…そうだっけ?笑
うみちゃん、そんな感じしないよ」

「嘘だぁ!
なんか航太くん軽くない?笑」

「まじで!?」

「"はじめまして"な感じが
しないってことでしょ?
えっ?
ただのチャラ男ですか?笑」

「いやいやいやいや!!
意外かもしれないけど
電話聞くなんてはじめてだよ。
なんかね…
少し話をしたかったんだ。
このまま店員さんと客で終わるんじゃなくて…」

お酒のせいでテンションの高かった航太が
急に落ちついた口調になり
海央と話をしたかったと言った。
それまでドキドキしっぱなしだった海央は
航太のそのひとことに
何故かドキドキしていた気持ちが落ち着くのを感じた。