「可奈子ちゃんって、良い匂いがするね…。」

そう言いながら斎藤さんは、どんどん私との距離を近づけて来る。

(イヤって言わなきゃ。)

そう思った瞬間、ロッカールームの扉が静かに開いた。
目線を向けるとそこには、今日休みのはずの平畠さんがいた。
一瞬目を見開いた平畠さんだったが、直ぐにいつもの無表情になる。

「構わず続けてくれ。」

平畠さんは、ゆっくりと言った。
私はその言葉の意味を、上手く頭で処理出来ないでいた。

斎藤さんは平畠さんの姿を見ると、とっさに私から体を離した。
私は、平畠さんの姿を目で追う。
私服ではなく、スーツ姿だだ。
黒地に薄く入ったストライプが、平畠さんのシャープさをより引き立てている。
平畠さんは自分のロッカーから何か取り出すと、直ぐに背中を向けた。

「邪魔したな。」

平畠さんは部屋を出る瞬間、小さく、でもハッキリとそう言った。

(『構わず続けてくれ』?『邪魔したな』?)

平畠さんの言葉が、何回も頭の中でこだまする。
『俺には関係ない』と言わんばかりの突き放す様な言い方がショックだった。

私はたまらず、ロッカールームを飛び出した。