「安浦さん。」

次の日、出勤すると直ぐに、内田マネージャーから声を掛けられた。

「はい、何ですか?」

タイムカードを押しながら内田さんの方を向く。
昨日の『マネージャーの奥さんは凄い美人』という彩の言葉が嫌でも頭をよぎる。

「今日、平畠君休みなんだよ。」

(あ、今日いないんだ。)

マネージャーの奥さんの事は飛んで行き、何故か寂しい気持ちに襲われる。
私は気付かないふりをした。

「何か、大学の教授の研究発表会か何かを、急遽手伝わないといけなくなったらしくてね。」

内田さんはそこまで事情を説明すると、ふぅと息を吐いた。

「で、安浦さん。入場ゲートなら、平畠君居なくても大丈夫だよね?」

私は、あれから何回か入場ゲートの仕事をしたので、内容は大体把握出来ていると思う。

「はい。大丈夫だと思います。」

私は、そう言いながら頷いた。

「じゃあ、今日はゲートをお願いね。分からない事があったら斉藤君に聞いて。」

『サイトウ』って、昨日彩が言っていた?
その名前に少し引っかかったが、そんな事は全く気にしていない内田さんはそう言うと歩き出した。
その後ろ姿見送っていると、マネージャーがクルッと振り返った。

「そうそう、今週末は送別会だから宜しくね。」

壁に貼ってある送別会のお知らせを指さして、内田さんは事務所に入って行った。

「サイトウさん。送別会。」

私はそう呟きながら、自分のロッカーの鍵を開けた。