「あと、何回も右田さんが『サイトウには気を付けて』って言ってたなぁ。」

あ、と大きく息を吐き、急に思い出した様に話し始めた。

「『サイトウ』?」

私は聞いた事の無い名前に首を傾げた。
彩は小さく頷くと、話しを続ける。

「うん。何か、バイトの男の人らしいんだけど、新人キラーなんだって。」

新人キラーというネーミングはストレート過ぎないかな...と思ったが、私は黙って彩の話しに耳を向けた。

「新人の女の子に直ぐ手を出すんだって。結構泣かされた人多いらしいよ。」

私はあまり興味が湧かず、適当に「そんな人いるよね。」と話しを合わせてみた。

「右田さんが『彩ちゃん絶対について行っちゃダメだよ。何かされたら、俺に直ぐ言って』って言ってくれたの。優しいね。」

そう言って彩は微笑んでいる。
私は、右田さんが言ったという言葉に引っかかった。

(何か、『サイトウに気をつけろ』と言うよりは、『彩に、サイトウに近づかないで欲しい』って言っている様に聞こえるなぁ。)

彩は、そんな風には全く捉えてい無い様子で、新人キラーの話しを続けている。
『もし右田さんが彩に好意をいだいているなら、気付くまで時間掛かるだろうな』と私は余計な心配をしていた。