スタッフルームのパイプ椅子に座り溜め息をつく。

「はぁ…あんなミス。自分で自分が信じられない。」

椅子に座ると震えは治まってきたが、今度は涙が溢れて来た。
もっと注意して行動していればと自責の念にかられる。
私は長机に置いてあるティッシュで目頭を押さえた。

「平畠さんにも迷惑掛けちゃった。」

そうつぶやくと、大きく肩を落とした。

「全くだ。」

その声に驚いて振り向くと、そこには平畠さんが立っていた。

「あの、私…すみませんでした!」

とっさに立ち上がり頭を下げる。

「阿呆!お客様より先に俺に謝る奴がいるか。」

もっともな怒鳴り声に目をつぶる。

「はい、すみません。」

また、涙が溢れ出してきた。
確かに、あの時私は平畠さんの名前を呼ぼうとした。
まずは、お客様への謝罪を優先すべきだった。

「取り敢えずお客様には掛かってなかったし、大きなクレームにはならなかったよ。」

その言葉に涙で霞む目線を上げると、平畠さんベストを脱いでいる所だった。

(そうだ!私、オニオンスープを平畠さんに掛けちゃったんだ。)

「すみません。あの、火傷とかしませんでしたか?」

平畠さんの背中を覗き込む様に見た。

「なんだ?お前が確かめてくれるのか?」

意地悪そうな視線を送ると、平畠さんは濡れたシャツのボタンに手をかけた。
段々はだける肌に、私は思わず目を逸らした。

「たっ、確かめません。」

顔が熱い。
男の人の肌なんて最近見ていないので、無駄に動揺してしまった。