部活の帰りに川っぺりをプラプラと歩いていた。
同じ学校の奴らや勤め帰りのサラリーマンが急ぎ足で俺を追い越して行く。俺は、急いで帰る理由もないので帰りくらいは、ゆっくり歩く事にしている。
川を見ながら歩いていると、土手を下りて川のすぐ側まで行きたくなる。だが、この時間に土手の下にいる奴はいない。ぼんやりするには、人目に付き過ぎる場所なのだ。
川は、薄紫から次第に暖かみを帯び、沈みかけた太陽の輝きを力いっぱい反射している。
歩みを進めていると、いつもと違うものに気付いた。
ガードレールと土手の斜面の間、1メートル程の平らな場所に若い男があぐらをかき、必死な様子で絵を書いている。水彩の見事な絵だ。俺が絵に見入っていると、その男は大きな溜め息をついた。気を取り直して筆を動かすが、筆の動きが速くなるのと同時に溜め息も増えていく。
「悪い。見られてると描き辛いよな」
立ち去ろうとすると、その男は俺の声に驚いて振り向いた。
なあんだ。俺に気付いてなかったのか。
「何で溜め息ついてたの?」つい、訊いてしまった。
「色が決まらなくて」再び急いで筆を動かしながら男は言った。
「あんた、画家じゃないの?よくいるじゃん、変わる景色に合わせて、どんどん描いていっちゃう人。あれ出来ないの?」
「出来ないから苦労してるんだよ。この絵で僕が希望のゼミに入れるか決まるのに。人生が変わってきちゃうんだよ!」
「水彩だから色を重ねる程色が濁っていくし、明日提出なのに、どぉしたらいいんだよぉ」
こいつ、殆ど独り言になるくらい追いつめられてんな。
あ、俺様ってば、いいことを思いついてしまった。