彼はチョコレートが嫌い

「目眩、おさまった?」

「え?」

また突然でびっくりする。

「別に目眩は起こしてませんよ?」

あなたの顔にクラクラしましたけど、と思いながら答える。

あたしの戸惑った声に、澤木さんは安心したように笑った。

「ならよかった。
今日の日差しは殺人的だったでしょ?
気持ち悪そうだったし、暑さにやられてそうだったから心配したんだ」

ちょっとごめん、といいながら、澤木さんは私の額に手を伸ばした。

「…ん、大丈夫そだね。平熱。のぼせてない」

あたしは突然触れた澤木さんの大きな手にびっくりして固まってしまった。

日常的に男の人と必要以上に近寄らないから、ドキドキする。

もちろん、クラスの男の子とふざけて手が触れるとかもあるけど、そういうのとはまっったく違う。

「あれ、どうしたの?顔が赤い?」

「澤木さん、信号、青!!」
不思議そうに覗き込む澤木さんの視線を交わすため、あたしは叫びながらフロントガラスを指差した。

車は滑るように走り出す。

なんだか調子が狂って仕方ない。

全部全部全部暑さのせいだ。

あたしは落ち着かなくてスカートをぎゅっと掴んだ。