彼はチョコレートが嫌い

「さて、後少しで着くね」

車はみどりの森ニュータウン、というイマイチなネーミングの住宅街に入った。

自宅まであと5分もかからない。

「ほんと、ありがとうございます」

「いやいや、俺、運転好きだし気にしないでね」

信号で止まると、澤木さんはあたしの目を見て人好きのする全開笑顔。

あたしは澤木さんの後ろに花が見えた気がして瞬きした。

もちろんそんなものはないんだけど。

「初対面なのに、車に乗せて貰って助かりました。…ほんとは、パンクして、困ってたんで」

もうすぐサヨナラだから、私は澤木さんの横顔を盗み見ながらお礼をいった。

彼はほんとに運転中はあまり話さないタイプらしく、走り出してから約20分、会話らしい会話はなかった。

でも不思議と気まずい思いはしなかった。
普通、こういう状況って会話しなくちゃ!みたいな緊張感があるんだけどね。

黙ってることが失礼じゃないような感じ。

だから、あたしはぼんやりカーステレオから流れる洋楽に耳を傾けていたんだ。

「ねぇ」