彼女が手にしていたもの、それは私が初めての記事投稿を行ったものだ。

まるでフリーライターを始めたばかりの人間が描いたような粗末なものだと思っていたけれど、そこには私の幼少の頃からの大事な空想の世界を克明に記したつもりだ。

上司の提案で小さなネイチャー関連の記事の端に描かれた小さなイラストと一緒に掲載されたものだ。

新聞でいうところの4コママンガやコラム的なイメージだったが、比較するのも失礼なくらいに小さな記事だった。

それでも私は一生懸命に書いた。

私にとっては写真の次に大切な仕事だったし、上司にはこのときばかりはとても感謝し、頭を下げていた。

その記事を大事に切りぬいて、肌身離さず持ってくれている人が、目の前にいた。

私は写真家になりたいと思っていたが、執筆家としてこんなにも感激させられることがあるなんて思いもしなかった。

私と彼女はひとまず駅のホームに降りた。

すると彼女がこう漏らした。

「植草さんはどこへ行かれるおつもりですか?本日も取材ですか?」

彼女はゆっくりとした口調ながらも、私にはやや攻め入られているようなほどにオーラを感じていた。

自分で言うのもややこそばゆい話ではあるが、彼女にとっては私は憧れの文筆家らしい。

「いや、本当は行き先も決めていないんだ。ただ特集がありそうな方面へとぶらりと一人旅をするって感じかな」

私はつい本音が出てしまい、少しだけ彼女ががっかりするのではないかと不安にかられた。

しかし彼女はむしろ満面の笑顔を見せてくれた。

「いいですね。そうなると次の乗り換えはもっと下り方面に行くってことになりますね。ここからだと・・・」

彼女は駅に張ってあった路線図を見上げながらアゴに手を当てた。

「うーん、ここが本当の終着駅みたいですね」

そんな彼女に私はふとこんなことを訪ねてみた。

「君はどこかに行く宛があったのかな?」

彼女は私の行き先を気にしているようだけれど、彼女自身はどこへ行くとか考えていたのかが気になっていた。