ローカル単線ではよくあることなのかはわからないが、何もアナウンスがないまま列車が止まるのはやや不自然だった。

ゆっくりと空いた扉の向こうには確かに駅のプラットホームがあった。

私も優子もこの駅に何かインスピレーションのようなものを感じ、ホームへと降りていった。

途端に列車の扉は閉まり、発車ベルが鳴ることなく出発してしまった。

線路の向こうは深い笹林が続く山肌となっていて、列車が向かっていった方面も、笹林のトンネルが続いていた。

駅には駅員がいる様子もなく、自販機や売店もない、まるで誰も管理していないような駅に見えた。

駅のホームに草こそ生えてはいなかったが、人が下りた形跡もなければ、人がいる気配もしなかった。

それに駅名の書かれた看板もどこにもないし、時刻表もなかった。

「もしかして、これってとてもまずいのかな」

私は少しだけ不安になった。

帰りのことを考えると、いつ来るかもわからない列車を待つことを考えるととても気が重かった。

「下りてしまったのですから仕方がないですよ。それよりも散策を開始しましょう。もしかしたら時刻表の載った紙とか置いてあるかもしれないですし」

優子はあくまで前向きだった。

何故不安を感じないのかは私にもよくわからなかたった。

優子は優しい顔と誠実な性格をしたおとなしい子だったけれど、いつも前向きに動いていて、後ろ向きなことは極力考えない方だった。

私は駅の改札に来ると、改札は木製の門に切符を回収する箱が取り付けられているだけで、どこにも駅員はいなかった。

私は切符をポケットにしまうと、改札を出て深く深呼吸をした。

そこは笹林に囲まれた一本の緩やかな獣道となっていた。

何もないこの駅は何故作られたのかが全く理解ができなかった。

でもこの駅が始まりだったんだ。

この駅に着いてから少しずつだけれど、私は不思議な体験をした。

もしここに私が来ていなかったら、今の私はまずありえなかったと思う。