トウサ高校にはシータがいる。シータは中学でオレと同じ野球部だった。シータは安川と違い、オレにとってはライバル的な存在だった。同じピッチャーで、オレが四番を打ち、シータは三番を打っていた。オレがとことん変化球やコントロールを重視していたのに対し、シータは直球で勝負するタイプだった。アイツはバッティングも決して自分で決めようとせず、必ずつなぐ姿勢を貫いてきた。「これがオレの仕事やから」中学三年生にしては地道すぎるセリフ。それがシータの口癖だった。
そのオレたちが、名門・トウサ高校の野球推薦枠一つをかけて、中学三年の夏の試合に登板した。結果は、オレが一失点に対し、シータは二失点。打撃もオレが三安打で、シータは一安打。推薦枠はオレが取ったとチームの誰もが確信した試合だったが、数日後、職員室に呼ばれたのはシータだった。
 あのとき、監督がシータに言った言葉はシンプルで、今でも忘れられないものだった。
「自分の可能性を生かしてみろ」