白球追いかけて

 四月、新入生が入ってきた。クラス替えで、ケメとヨシナはオレとは違うクラスになった。
 その春は寒くて、桜がなかなか咲かなかった。冬が忘れ物をしたのか、春先も肌寒さが残っている。しかし、昼間の日光にもだいぶ助けられ、中旬にはつぼみが大きく開いた。その並木道の坂を自転車で一直線に突っ走ると、とても気持ちがよかった。
 坂道を自転車で駆け下りていると、辺りが薄暗くなっていたので、足で「ポンッ」と自転車の電気をつけた。この感覚がとても心地よかった。
 しかし、この余韻はいつまでも続かない。並木道の終わりのほうで、急に「ガクン」となり、自転車の後輪がアスファルトに「ガリガリ」と擦りつけられる感触がしたので見てみると、タイヤがペシャンコになっていた。試しにそのままこいでみたが、ペダルを踏み込む足がとても重かったので、自転車まで押していくことにした。
 自転車屋に着くと、半分までシャッターが下りていて、つなぎを着てキャップを反対向きにかぶったおっちゃんが、店の前に駐めてあった軽トラックのエンジンをかけて帰る準備をしていた。