音楽の流れる涼しいオアシスにやっとたどり着いて足早に入ると、カバンを地べたに置き、雑誌や漫画を読みあさる。安川が手にしたのは、表紙と最初の数ページにグラビア女優がのっている雑誌。真夏なのにその女優は、まったく日焼けもせずに水着でポーズをとっている。
 オレが安川の開いたページを横からのぞき込んでいると、安川は「パタン」と急に本を閉じた。
窓の外には手を振る女のコ。安川の彼女だった。
 その安川の彼女は、年上のフリーターで車持ち。たまに彼女は、駅のそばのコンビニまで迎えに来るので、そこからはオレ一人で帰ることがある。
 この日も安川はデリバリーのピザのように、車内に吸い込まれていく。こちらに向かって軽くほほえむ女性の横で、「バイバーイ」という言葉と笑顔を残して。
 いつものしんどい練習後、安川に与えられた至福の時間。アイツにとっては、カラカラに渇いたのどをスポーツドリンクで潤すようなものだったのかもしれない。その表情は心の中がみずみずしい燃料で満たされていくようだった。