「……俺があの時…咲弥の兄貴に真実を告げていたら…良かったんだ…」

 隣で神が声を苦しげであるが必死に絞り出す。
 
 「神…」

 「……でも…俺の立場、理人の為、父上の為に言えなかった…」

 神は髪を掻き毟って、頭を抱え込む。

 神は悔やみ、自分を責める。

 「咲弥の素性は一から知って…執事として私が雇った
。でも、私は咲弥の知りた
いと思っていることはすべて知っていた。
早く、事の真相を咲弥が暴いて、如月家な
んて没落すればいいと思っていた」

 「父上??」

 父上らしくない言葉。

 それが父上の本音?

 「……私の望んだ夢は…家族4人…ごく平凡に幸せになればいいと思っていた」

 父上は椅子の肘掛けに肘を立て、両手の指を組む。



 その瞳は焦点が定まらず…、父上は望んだ夢を見つめていた。

 決して現実にはならない夢のまた夢…。