「…そのう…」


 いつもの命令口調の俺さまが消えていた。


 母親のことも話さなくてはいけないのに…言葉が出ない…。


 美紗緒は俺を無視して、黙々と仕事をこなす。

 
 「昨日は…私も言い過ぎました…申し訳ございません」


 ふと手を止めて、美紗緒は俺に振り返り、頭を下げる。


 「……」


 俺が謝る前に…美紗緒が俺に謝った。


 

 …美紗緒の中で…俺は完全に存在否定されてなかった。


 そう思うだけで…心臓の痛みは和らぐ。


 昨日の夜のことは…これで解決した…。でも…俺の胸の中にわだかまりが残る。


 だって…あれは俺が悪いんだから…。


 「……俺の…方こそ…」


 「蓮さま…玄関に車の方…回しておきました…急ぎましょう~」


 柚木が厨房に入って来た。