「……大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫……」

気付くとその言葉を小さく繰り返していた。

揺れる心を抑える様に胸元を強く押さえたまま、離れていく灰色の影を見つめる。

《あの鬼がお前に隠している……全ての事を》

その彼の言葉が蘇る。

……大丈夫……だから……

ギュッと唇を噛み締め大きく深呼吸をすると、遠く離れていく男の影を追う様に歩き出す。

眩しい偽りの太陽に照らされたまま朧源の後を追って行くと……突然どこから遠くから強い風が吹き、中庭の大きな樹木達がまるで私に何かを訴えるかの様に、ザワザワと青い葉を揺らした。