「もう諦めろ。お前には時間が無い」

男のその言葉を聞きながら、グッと手の甲で奪われた唇を拭う。

「貴方は弱い人ね……朧源。そしてとても悲しい人」

その言葉に男は自嘲気味に笑って見せると、私に背を向けた。

「知っているさ……そんな事は」

背を向けたまま男はそう呟くと、そのまま廊下の先へと消えて行った。