鬼守の巫女


「遠い昔、鬼の中でもかなり上位の鬼がいた。そいつは世界を滅ぼせる力を持っていたが、鬼に似つかわしくない、穏やかで争い事の嫌いな鬼だった」

「そんな鬼も……居るんだね」

私の呟きに、鬼の男は少し切なそうに瞳を揺らすと小さく頷く。

「初代の巫女は……まぁ、巫女と言ってもただの女だったがな。彼女は小さな村で生まれ育った普通の人間だ。畑を耕し穏やかな毎日を暮らすだけの、普通の娘。しかしある時、彼女の村が鬼に襲われ、彼女以外の村人全員が鬼によって無残に食い殺された」

「……そんな」

「彼女は鬼を憎んだ。鬼の全てを殺し、必ず家族の敵を取ると。そう誓い、彼女は鬼を封じる為に巫女になった」

鬼の語る真実に、静かに耳を傾ける。

その中で、自分の胸がドクドクと波打つのが分かった。

鼓動が強く速くなり、少しだけ息苦しい。