うだるような暑い夜だった。
少年が一人、縁側から星を眺めていた。
少年はいわゆる「かなづち」であった。幼いころ、川で流されかけたときの恐怖から、水に顔をつけることすらできなかった。
川に流れているものが、水でなかったらなあ、と少年は考えた。たとえば、もし流れているものが星だったら、少年は喜んで泳ぐだろう。
気がつくと少年は、天の川の岸辺に立っていた。
少年は驚いて、恐る恐る川に手を浸した。少年の指の間を、星屑がさらさらと通り抜けた。
少年はランニングシャツを脱ぐのも忘れて泳いだ。魚やイルカになったような気分だった。
泳ぎ疲れて岸辺に這い上がると、少年は縁側に戻っていた。
ポケットに詰まっていた星屑は、ひと夏のあいだ、少年の机の引き出しの中で輝き続けた。