紅朧、という猫がいた。 艶やかな黒毛。闇の中で光る真黒の瞳。首には紅い唐紐。 飼い猫である。 主の藤和仁央の屋敷に先日、妻が迎えられた。夫婦が並ぶとそれはまるで何かの絵のようで、空気が華やいだ。 ある日、宮様が身罷られた。その夭折に帝はひどく悲しまれたが、宮様が命を懸けて残された帝の初めてのお子は親王で、直に春宮となられるだろう。 時は移り変わってゆく。 仁央は時々、空を見上げ呟く。 「くろう」と主が呼べば 「みゃあ」猫が答える。 そんな気がした。 おわり