私の人生の中で、もっとも短い一日であった。紅朧を腕にしたまま飯も摂らずに、語り、笑い、泣き、語り。
 私にとって、紅朧はなくてはならない存在だったのだ。それは、決してあの御方の代わりとしてではない。あの御方を思う気持ちは私の心の奥底にいつもあったが、どんな時にも私の傍にいた紅朧は、私の大切な心の拠り所であった。お前は私を何度救ったことか。お前が知るよしもないかもしれぬ。常に私を慰め、癒したのは、紅朧、お前だけだ。
 紅朧、私はお前には、お前だけにはずっと傍にいて欲しかった。お前はその美しい体を天に捧げた。どのような巡り合わせかは私には解らぬが、私の元に戻って来てくれたお前を、私は手放したくなどない。しかし、紅朧、私はお前を甘く見ていたな。お前がそんなにも心の強いものだとは知らなかった。
 
 紅朧、月の光に溶けて消えてしまったお前を追う方法を私は知らない。けれども、お前の残していった全てをこころに留めておくことはできる。紅朧、お前は私の中にいるのだね。紅朧。だから私の中で、静かに眠りなさい。


「はい」