気がつくと、夜になっていました。孟秋の月が高いところにあります。
なよ竹のかぐや姫は中秋の名月の夜に月にお帰りになったと、以前仁央様が教えて下さいました。育てて下さったおじいさま、おばあさま、切にいとおしんで下さった帝、そのほか沢山の人びとを地に残し月へ帰り行く姫のお心のつらさ、送る人びとのお心のつらさ、思うに難くありません。
わたくしははっきりと悟っていました。明日にはこの月が満ちます。わたくしはその月の光とともに消え入るのです。
わたくしにとって、かぐや姫のおじいさまもおばあさまも帝も、全てが仁央様でした。わたくしは仁央様に育てられ、可愛がられ、そして死んだのです。仁央様、あの日のわたくしの好奇心をお咎めになりますか。浅はかな振る舞いではありましたが、わたくしはわたくしの知らない仁央様を知れてとても嬉しゅうございました。
もしかしたら、わたくしはもう、こちらへ来なかったほうが良かったのかもしれません。何もわからないまま犬に喰われ、そしてあの蓮華御殿で静かに過ごしていたほうが。
「そんなことはない」
わたくしは顔の向きを変えました。真上に仁央様のお顔があります。わたくしは仁央様の膝を枕にして横になっていました。
「そんなことはない」
どうやらわたくしは思っていたことを声に出していたようです。
「いいえ…」
わたくしはゆっくりと首を振りました。仁央様がわたくしの頭を撫でます。
幾人もの女人を見つめてきた瞳が、今わたくしに降り注がれています。わたくしはその瞳を見つめ返しました。いえ、逃れることなどできないのです。



