「紅、」
「はい」
「私が、ここで何をしていたと思う?」
 謎掛けでしょうか。
「…歌を詠まれていらっしゃった…?」
「違う」
「猫の真似をしていた」
 どういうことでしょうか。
「猫の鳴き真似」
「それでは」
「お前の聞いた猫の声は、私のだな。そうか、猫の言葉か…」
 言葉の最後が衣の中に消えてゆきます。
「…仁央様」
 わたくしを支える仁央様の手に力が入りました。わたくしの髪に仁央様が頬を沿わせられているのです。
「仁央様」
「言うな」
 それは強いお言葉です。仁央様、貴方は今どのようなお顔をしていらっしゃるのですか。
「ただ、答えよ」
 仁央様にこのようにされてどこか嬉しいはずなのに、わたくしのからだが震えていました。

「一つ。紅、生まれはどこだ」
「親に捨てられましたので…」
「答えよ」
「わかりませぬ」
「宮中ではないのか?」
 宮中。
 仁央様、あなたは。

「二つ。ここに来るまでどこにいた」
「…」
「答えよ」
「河原町に」
「まことを言え」
 ああ、仁央様。


「三つ。お前の本当の名は」