「紅や、お前顔色が悪いよ?」
 松様に言われたのは、立秋を過ぎて間もなく、まだ夏の暑さの残る日のことでした。
「暑さの所為でございましょう」
 わたくしはそう答えましたが、確かにこの頃、体の具合が良くないのです。
「休んだらどう?紅は働き過ぎだよ」
「いえ、そんなことは…」
 他の方々にも言われ、わたくしは部屋へ下がって休むこととなりました。
 まったくどうしたのでしょう。わたくしのからだは。
 部屋でひとり、天井を見上げます。ふう、と長息をつきました。



 どれほどの時間が経ったのでしょうか。わたくしは知らぬ間に眠っていました。
 
 みゃあ

 屋敷の奥から、猫の鳴き声がいたしました。

 みゃあ、みゃあ

 わたくしはもちろん、猫の言葉がわかります。来なさい、と呼んでいるのです。
 わたくしは立ち上がり、その声に呼ばれるままにお屋敷の奥へと進みました。

 みゃあ、みゃあ、みゃあ
 早く、ここへ、来なさい

「…みゃあ」