「…」
 わたくしは返す言葉が見つかりません。
 わたくしに、わたくしの墓守をせよ、と。
「おや、はい、という返事がないな」
 半ば揶揄するように仁央様はおっしゃいますが、わたくしは一体何と返せばよろしいのでしょうか。
「仁央様…」
「ん」
「まだこのお屋敷に入ったばかりのわたくしが、そのように仁央様の大切にしていらっしゃった猫の」
「良いのだ」
 仁央様の強いお言葉が、わたくしの言葉を遮ります。
「お前だから託すのだよ、紅。お前はどこか紅朧に似ている…」
 わたくしは、言葉を失いました。仁央様は気付かれていらっしゃったのでしょうか。わたくしが、紅朧であるということに。
「…流せ。人間と猫が似ているなど、おかしな話だ」
 けれども、仁央様は、わたくしと洞院の綾様を似ている、ともおっしゃっておりました。
「頼むぞ」
「はい」
 この他に、わたくしが仁央様に返す言葉があったでしょうか。

 かくして、わたくしはわたくしの墓の守をすることとなりました。毎朝、石を拭き、花と水を替え、手を合わせるのです。わたくしのために。
 はたから見れば、いえ、わたくしのような者は滅多にありませんが、ひどく滑稽なものかも知れません。しかし、わたくしは懸命にこの仕事を行いました。仁央様のご意向に答えるためにも。