スカートを手に取る。
( ・・・どっちが、前なんだよ、コレ・・・! )
生まれて初めて手にしたスカートというものを前に、僕は、大いに悩んだ。
( クラスの女子の服装を思い出すと、左側に、フックとファスナーがあったな・・・ じゃ、多分、コッチが前だろう )
何とかスカートを履いたが、股間がスースーする。
これでは、大変不安だ。 風が吹いたら、どうすんだ?
僕は、急速に不安になった。
小学校時代、スカートめくりの神様と呼ばれた健一の存在が、脳裏をかすめる。
・・・ヤツは、やる。
99.9%の確立をもって、間違いない。
それだけは、絶対に阻止してやる。 僕でさえ、まだ一度も見てないのに、健一に
先を越されてたまるか・・・!
妙な対抗意識を芽生えさせつつ、僕はベストとブレザーを着込むと、ブラウスに
リボンを付けた。
ふと見ると、紺色のハイソックスがある。
どうやら、これが武蔵野明陵の指定ソックスらしい。 ふくらはぎの側面には、校章が
刺繍してあった。
( どうせなら、ルーソーを履いてみたかったな・・・ )
ノンキに、そんな事を考えながらも、何とか、着替えを終える。
ドアの横にあった等身大の鏡に、僕は自分の姿を映してみた。
当たり前だが、どこから見ても女子高生である。
ああ・・・ さようなら、男の僕。
これから僕は・・ いや、あたしは、どうしたらいいの?
鏡に向かって、僕は手を胸で組み、小首をかしげて、悩む少女の格好をしてみた。
・・・可愛いじゃないか。
思わず、僕は、顔を赤らめた。
「 イカンッ・・・! 自分で、自分に恋して、ど~すんだっ! ナルシストか、っつ~の・・・! 」
ふとその時、僕は、何者かの視線を感じた。
横を見ると、薬屋の入り口に立っているようなキャラクター人形らしき物体がある。
何だ? コレ・・・?
やがて、その物体は喋った。
「 ほお~う・・・ 着替えとは、そうやってするのかね。 いや、珍しいアトラクションを拝見させてもらった 」
なっ・・ 何だ、コイツは・・・!?
身長は、約六十センチくらい。 とがった形のツルツル頭に、サングラス( レイバン風 )、
ビニール素材のような、黄色いジップ・ブルゾンを着込み、極端に短い足に、ショート
ブーツを履いている。