尾長鷲のメスは美しくて──

 悔しいが。カラディの知識が、ここでは役に立った。

 桃は、慌てて御者の男に説明したのだ。

 あの鳥は自分の連れで、決してメスがいるからここを飛んでいる訳ではないのだと。

「尾長鷲の…連れ?」

 御者が、ぽかんとしている。

 その直後。

 幌の中から、高らかな女の笑い声があがった。

「この国広しと言えども、尾長鷲と旅をする人間など、初めて見たわ」

 をほほほほほ。

 御者側から、女性が笑い続けながら顔を出した。

 顔と言っても、半分は扇で隠していて、全ては見えなかったが。

 つややかで、重たいのではないかと思えるほど豊かな黒髪には、沢山の小さな白玉があしらわれている。

 同性の桃でさえ、どきりとさせられる色香は、扇では決して隠し切れていない。

「あなたは、動物の調教師かなにか?」

 興味深げに問われて、桃は首を横に振った。

「いいえ、私はただの旅人です。鳥は、友人が私の旅の安全を心配してつけてくれたんです」

 出来るだけ正確に答えたつもりが、またもこの御婦人の笑いを誘っただけ。

「港町へ行くのでしたら、うちに滞在しませんこと?」

 風変わりなものが好きなのか、いきなり家に誘われる。、

 貴族か豪商の奥方だろうか。

「ありがとうございます、でも、人を探しておりますので」

 桃が、丁重にお断りしようとした時。

 女性が、パチンと扇を閉じた。

 妖艶な顔の全てが、明らかになる。

 だが。

 化粧で隠されてはいるけれども。

 顔の半分には──火傷の跡があった。

「それなら、なおさら私といらっしゃいまし。きっとすぐに、人は見つかりましてよ」

 港町。

 火傷。

 そしてこの人は、桃より10歳ほど年上だろう。

 ということは。

 あの、襲撃事件で出来た傷だろうか。