「ヤマモトという良い友達がいるので、後見人はいらないそうです」

 ウメにそう言うと、彼女は珍しく弾けるように笑った。

「ああ、そう…それは光栄だわ」

 本当におかしくてしょうがなかったらしく、咳き込むまで笑うのだ。

「太陽妃様は、何ておっしゃったの?」

 その咳がおさまって、ようやく梅は次の言葉を紡いだ。

「はい。『そのお友達の中に、私の名前も入れてくれるかしら』と」

 事実上。

 後見の話を、了承するという返事も同様だった。

 ただし、肩書が「友達」というものになるのだろうが。

「そう…でも、私はそれほど後見のことは心配する必要はないと思うのよ」

 家の外で、コーが歌っている声がする。

 その声に耳を傾けるように、ウメは目を閉じた。

「コーは、好きなところへ好きなように、旅が出来る素質があるもの」

 そう遠からず。

 コーが、どこかへ行ってしまうようなことを言う。

 トーと同じように、流浪の人間になるというのか。

 だが、あの娘は。

「彼女は…ハレイルーシュリクス殿下の…」

 桃が、言っていた。

 コーは、かの君の思われ人なのだと。

 旅を成功させた太陽の息子として、ハレはイデアメリトスの一員として重用されるだろう。

 好き勝手に都を離れて、コーと旅をすることも出来ない。

 そうなれば、彼女の方が都にしばりつけられ続けるのではないか。

「エンチェルク…人の恋は、常識的なものばかりではなくてよ」

 その言葉に。

 ああと、エンチェルクは胸を締め付けられた。

 ウメ自身が、その常識の外にいる。

 キクもまた、常識の線など越えて行く人だ。

 そんなことを、人が傍から心配する必要はないのだと。

 しあわせのかたちは、本人が決めるのだと。

 心配性なエンチェルクには、まだそれが骨の髄から理解出来てはいないが、目の前にいるウメという名のしあわせのかたちが、心配はいらないというのだ。

 それならば。

 コーという人間を、信じて見守ろう。

 そして、自分も強くならなければ。

 テルに──意見が出来るほどに。