「む、無理だよワン!あたし…」

「一緒に思い出作ろうよ」

「思い出…?」

「ここでしか出来ないこと、やんなきゃ損じゃん!」



半ば無理やり稀衣ちゃんの手を引いて、オレは人の少ない方へといく。



稀衣ちゃんはそもそも乗り気じゃなかったから、あまりやる気が出ないのも分かるよ。



だけどせっかく一緒に雪山にいるんだから、楽しんだ方が絶対にいい。



「去年ワン、上手だったよね」



去年も一緒に、雪山に来たんだよな。



「オレなんか、まだまだだよ?」



あの時の思い出と言えば、閉じ込められた真っ暗な部屋の窓から、2人で花火を見たこと。



キレイで、でっかくて。



オレは多分、稀衣ちゃんと見たあの真冬の打ち上げ花火を、一生忘れないだろうなって思ったんだ。



「十分だよ。あたしなんて、楽しみ方すら知らないんだもん」



そう言った稀衣ちゃんは、少しだけ寂しそうな顔をした。



稀衣ちゃんはこの顔を、たまに見せる。