「…お兄ちゃんも?」
「ん?」
「お兄ちゃんも、お母さんを守ってあげてるの?」
「…オレは」
そこまで口にしたワンが、一度あたしを見る。
すぐにマナブ君の方に向き直り、
「あのお姉ちゃんだよ」
って、満面の笑み。
「どうしてあのお姉ちゃんなの?」
「それはね、大切な人だから」
そう言ったワンの顔は、見えなかった。
だけどあたしは、その言葉だけで十分だ。
十分すぎるんだよ、もう。
出会ってから今までワンにもらった、沢山の感情。
あたしは、何かワンにあげられてるだろうか。
自信なんてないけど、それならせめて。
せめて、ワンに大切だと思われる自分でいたい。
それから何度も振り返りお辞儀をしながら、親子は来た道を帰っていった。
人の笑顔をつくるって、安易なことじゃないんだよ、ワン?

