首を傾げるあたしにワンは、
「忘れてた!」
少し遠くからそう言う。
忘れてたって、なにを?
なんのこと言ってんの?
そう思うあたしに、
「おやすみ!」
白い息をはきながら一言。
わ、忘れたものってそれ…?
………ぷ。
「おやすみ」
あたしの返事を聞くと、ワンは満足そうに頷き、あたしに背中を向け、夜道を走って行った。
置いてかれそうな不安も、全部。
ワンの「おやすみ」ひとつで飛んでいく。
あたしが単純なのか、ワンがすごいのか。
たぶん両方。
結局あたしは、ワンには敵わないんだから。
…悔しいけど。

