「レディス&ジェントルメン!只今より、“第百五十回何出弥焼肉祭り”を開催致します!」
 何出弥製作所内に、司会者の声がとどろいた。

 今日は土曜日。会社は休みだった。しかし、夕闇に包まれ始める午後七時、工場敷地内には多くの人々が溢れかえっていた。

 そうこの日は、何出弥製作所恒例の“焼肉祭り”が開催されていたのだ。

 十年前には何出弥焼肉祭りは“年に一度”の開催であった。しかし金持ち将太郎の、鶴の一声により、“年四回開催”となったのだ。

 将太郎は焼肉命の男であったのだ。


「結局あのあざらし捕まんなかったでしょう?将太郎さん。」
 ヨッタが訊ねた。傍らでくっきーが舌を出し、お座りしている。何出弥焼肉祭りは、家族同伴OKのいわば家族会でもあった。

「んだ。おら、いっぺ人集めて街中探したんだ。だげんちょ、めっけらんにがっただよ。」
 将太郎の顔が暗くなる。

「…折角、金使って“良い事”しようってしてたのに…莫大な費用かかったんじゃ。」

「んだな。一人、日当一万五千円で二百人、それが三日で…九百万だな。」

「み…三日で九百万?何ですかそれ?」
 余りの桁の違いに戸惑うヨッタ。

「金の事は気にすんな、ヨッダ。あざらし探してるとぢゅう、財閥のおっちゃんに会ってな、俺家(おらげ)の会社に、ビル一つ作ってくんにがど言って来ただ。うん十億の仕事だと。」

「はぁー。さ…流石。…それはそうと、何です?その包み。」
 ヨッタは将太郎の右手に抱えられた包みに視線を向けた。

「ああ、これが。本日の“スペシャル食材”だ!中華街の“闇のルート”がら送っでもらっただ。」
 将太郎が和やかに笑う。

「よう。ヨッタ、今日も腹減ったな。」
 千秋がよたよたと近づいて来た

「ちいっす、千秋さん。何か、やつれてないですか?」

 爽やかな千秋ではあるが、頬も痩け(こけ)酷くやつれている。

「将太郎の奴が居なくなるから、食う物が無くてな。四日間断食だよ。まあ今日、沢山食えるからいいけどな。」
 千秋は焼肉の乗った鉄板を見据える。

「流石千秋さん。貧乏一直線ですね。」
 ヨッタが納得した。


 会場は肉も程よく焼き上がり、盛り上がりを見せつつあった。