「買い出しなんて面倒だな。」
 貴ボンがぼやく。

「まあ、そう言わないで。私と貴ボン、今回景品の買い出し係なんだから。」
 バックミラーに映った京子が言った。

「まあ、京子が言うなら仕方ないな。二人で、どこ行こうか?」
 貴ボンがにやける。

「“元町”だろ。」
 ヨッタの声がした。ヨッタは助手席で前を見つめる。

「…まったく、何でお前等ついてくるんだよ、折角の京子とのデートなのに。」

「貴ボンが危ないからだろ。」
 ヨッタが言った。京子が後部座席で笑う。

「二人共、喧嘩しないで下さい。今夜はダブルデートを楽しみましょう。」
 後部座席に座る“もう一人”の女が言った。



 彼女の名は“紫織”。何出弥製作所の仲間だ。ヨッタ達三人は同い年であるが、紫織はその一つ年下になる。

 紫織はこの街の、某有名女学院出身のお嬢様で、会社内では京子と一、二位を争う程の美人だ。

 今日の四人の目的は、明日会社で開かれる“第百五十回”“何出弥焼肉祭り”のビンゴゲームの賞品の購入の為だった。


「いいなそれ。じゃあ、俺と京子、ヨッタと紫織で決まりだ。」
 貴ボンがほくそ笑む。

「ふざけるな貴ボン!」
 ヨッタは貴ボンの方を向き叫ぶ。

「あら、ヨッタ先輩、私とデートするの不服ですか?」
 紫織が言った。

「いや…そう言うつもりじゃ…」
 ヨッタが答えた。



 こうして四人を乗せた、貴ボンの“ケンメリ”スカイラインは港湾沿いの県道を駆け抜けていった。