「京子?!」
 外を見つめるヨッタ。

「な…何で笑ってんだ?とにかく、ヨッタ行ってくれ、俺は行けねーかんよ。あいつは、不治の病なんだ。」
 貴ボンは切実に訴える。

「ハゲを見ると笑いだす病?…只の性格じゃねーの?」
 ヨッタが冷静に言う

「そうなのか?まあ、今は京子を頼む!」

「ああ分かった。」
 ヨッタは部屋を飛び出した。




「ぎゃははは…」
 公園に辿り着いたヨッタの眼前で、京子は笑い転げていた。

 傍ら(かたわら)で野球帽をかぶった初老の男がおろおろしている。

 ヨッタは京子の肩を掴み揺さ振った。
「京子!どうしたんだ?」

 しかし京子は笑ったままで、一向に埒(らち)が開かない。

「ねえ、おじさん、彼女に何があったんです?」
 ヨッタは男に訊ねる。

「さ…さあ、この子、急に笑いだしてさ、私も困っているんだよ。」
 男には何も身に覚えが無いらしい

「ははは・・はっ!」
 突然京子の笑い声が途絶えた。そしてそのまま微動だにしない。

「き…京子?」

『ま…まさか、貴ボンの言う通り、不治の病?』ヨッタは京子の胸に耳を当てた。

 穏やかな寝息が聞こえた。…寝たらしい。顔には安らぎの表情さえ浮かぶ。

「わ…笑い疲れたのか?泣き疲れて寝るってのは、聞いた事あるけど、笑い疲れても、寝るのか!」
 意外な展開に驚くヨッタ。しかしこれで事態が解消されたのも確かだった。


「おい、こんな夜中にうるさいぞ!」
 誰かが言った。

 ふと気付くと、ヨッタ達の周りに十人程の人垣が出来ていた。どうやら辺りの住人が京子の笑い声を聞き付け、集まったらしい

「す…すみません。彼女、笑い上戸で、今連れて帰りますから。」
 ヨッタは住人達に謝り、京子の肩を抱き抱え、その場を去ろうとする。