「じゃあな、たのんだぞヨッタ。」
 ハイラックスの窓越しに、ごんぞが言った。

「分かった頑張ってみるよ。」
 車外でヨッタが答える。後方でくっきーが尻尾を振っている。くっきーは怪我も回復して、すこぶる元気だ。

 ヨッタ達は、四人が初めて出会った旧道へと戻って来ていた。

「じゃあ俺は、他に用事があるから、いくわ。」

「ごんぞ本当に大切な用事なんだろうね。まさかハメを外そうとしてないよね。」
 ポゴがヨッタの胸元から顔を出し訊ねる。

「ば…馬鹿、そんな事しねぇよ。」
 ごんぞは慌てて答えた。

「まあ、いいや。じゃ何かあったら電話するから。」

「分かったよ。じゃ行くぞ。」
 そう言ってハイラックスは去っていった。


「じゃ行こうか。」
 ポゴが言った。

「うん。貴ボンが心配だし。」

 貴ボンが見付けたと言ったあのザーラ星人・財布・そしてカツラ、貴ボンに何かあったのは間違い無かった。

 ヨッタ達は貴ボンの元へと行く事にしたのだ。




 時刻は午後八時。

 旧道を抜け、生活感のある県道まで来ると、街灯の数も多くなる。

 街灯に照らされ、グラデーション(濃淡)の萌える新緑。それと、遠くの繁華街の明かりに照らされうっすらと白ばむ空。その二つが合わさって、絶妙なハーモニーを奏でている。

 県道から脇にそれると、住宅街が広がる。貴ボンの住むアパートは、そこにあった。


「貴ボン!開けてよ、貴ボン?」
 貴ボンの部屋の前で一人の女性がドアを叩いている。

「京子?」
 それは、京子の姿だった。

 京子もヨッタに気付き視線を向けた。

「ヨッタ!」

「どうしたんだよ。こんな所に、まさか貴ボンに会いに?」
 不安げに訊ねるヨッタ。

「うん、昼間貴ボンが、『あざらしのたまちゃん見に来いよ』ってしつこくて。」

「なんだよ、本当に来ちゃったのか。それで貴ボンは?」

『くっそー貴ボンめ!』ヨッタはその気持ちを押し殺す。