「くそーしつこいな。くっきー大丈夫か?」

「ワ…ワン。」

 息が切れ、喉が乾く。硬いアスファルトに擦れ(こすれ)、肉球が痛い。さすがのくっきーも限界だった。



「キャン!?」

「……」

 不意に、ヨッタとくっきーの体が宙に浮いた。くっきーがアスファルトの裂け目に足を取られたのだ!



 この瞬間、二人の運動エネルギーが“0”になる。と同時に時間がゆっくり流れだす。全ての時と音が消えた気がした。



 ギャギャギャギャー…

 ハイラックスが耳をつんざく激しいブレーキ音と共に、跳んでくる!


「ごんぞ!ブレーキ!ぶつかる!!」

「踏んでるよ!あいつら何で、止まっちまうんだよ!」

 ハイラックスは、関を切った濁流(だくりゅう)の如く、左右に激しく車体を振り進む。もはや誰にも止められない。

「うおー!もう駄目だ!」

 ハイラックスのヘットライト中に、ヨッタの姿が溶ける



ギャギャギャ…

 ドカーン!



 ヨッタの体が光の洪水に包まれた。全てが光っていた。


『時間よ止まれ。』そう願ったヨッタだったが、虚し(むなし)くもそれは叶わなかった。全ての生きとし生ける者は、時の迷宮から逃れるはずはないのだから



 …やがて全てが闇に包まれた…