「やだぁ!」 紗英子が、わっと泣きはじめた。 ―声をだしたら見つかる。 俺は紗英子の口を抑えた。 声を殺して涙をこぼし続ける紗英子。 紗英子の涙が俺の手を伝って、床にぽたぽたと落ちた。 見つかれば、俺も紗英子も殺される。 今は、呼吸ひとつでさえにも細心の注意を払わなければならないのだ。