次の日、女はそこにはいなかった。30歩ほど離れたところにある木の下にいた。

今度はささくれた肌の幹にもたれて、またあの山を眺めている。

じっと、向こうを見たままで僕に背を向けているから、砂を鳴らさないようにそっと近付いた。

女の許には薄い轍が続いていた。
踏んでしまわないように隣を歩く。

僕が幹の裏に立っても、女は気づかなかった。

やがて太陽は低くなって、蜩が逃げるように鳴いた。